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吉田信三のアメリカだより 第5回

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国際アナリストで湖山医療福祉グループ顧問でもある吉田信三氏が、学術研究のためにアメリカ東海岸のマサチュッセッツ州ケンブリッジ市に滞在しています。

同氏には、アメリカの政治、経済、社会をはじめ介護や福祉など――アメリカの息吹を現地からリポートしていただいております。

5回目は、巨大地震・津波と原発事故への対応を、固唾を飲んで見守るアメリカから

東日本を襲った巨大地震(3月11日)から約2週間が経過した。そのすさまじさには世界中が唖然とし、行方を心配している。アメリカもご多聞に漏れず、新聞は連日、大々的に報じ、テレビは、ニュース専門チャンネルなどが24時間フォローの体制をとっている。とくに福島第一原子力発電所の被災事故は、放射線が飛散しアメリカにも被害が及ぶのではないかという恐怖感や、地球温暖化対策の決め手になると期待されていた原発推進がこの事故で大幅に後退するのではないかとの懸念から、当地では大きな関心を集めている。巨大地震・津波と原発事故への対応を、固唾を飲んで見守るアメリカからリポートする。
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新聞は連日、大々的に報道

衝撃

TSUNAMIは今や国際語だ。当地の新聞もテレビも何の注釈もつけずに使っている。元が日本語だということを知っている人はそう多くはないのではないか。テレビ画面で、家が流され、車が流され、人が濁流に飲み込まれる様を見せつけられたアメリカ人はただただ呆然とみつめるばかりだった。
地震が少ないアメリカだが、その裏庭のハイチで昨年1月に地震が発生、30万人を超す死者が出た。米国内で支援の輪が広がり、地震はある程度、身近なものになっていた。津波についても、2004年のスマトラ沖の地震・津波(死者22万人以上)の映像を見て関心が高い。

しかし、それらと今回はまるで違っていた。死者、行方不明者の数ではハイチやスマトラの方がはるかに多かったにもかかわらず、視聴者を釘づけにしたのは日本の方だった。テレビの映像や、インターネット、ユーチューブ、フェイスブックなどを通じて東北各地から次々と送られて来る惨状を知り、アメリカ国民の多くは「まるで生中継を見ている」(友人のビル・テーラー君)印象だったという。「アメリカ人がこれほどまで他国の惨事に関心を持ったことはない。インターネット時代だということを実感する」(同)。
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テレビも24時間中継放送

同情から敬意

衝撃以上に驚きだったのは、日本の被災者の忍耐強さ、規律正しさだ。この手の災害があれば略奪や暴動が起きるのは普通。ハイチなどでもそうだった。 2005年、ルイジアーナ州を襲ったハリケーン・カトリーナの時も似たような状況になった。救援物資をわれ先に奪う光景を見慣れているアメリカ人の目には「日本人は違う。特別だ」と映ったようだ。CNNテレビやFoxテレビはそのことを盛んに強調する。ニューヨークタイムズ紙は11日付の紙面に元・東京支局長、ニコラス・クリストフ氏のコラムを掲載、この中でクリストフ氏は「日本人の強靭さと忍耐力には、崇高で勇敢なものを感じる。これから日本は結束してこの難事に立ち向かうだろう。日本の方々に同情を申しあげる。日本人の柔軟性とがまん強さに最大級の敬意を表したい」と書き連ねた。そして阪神大震災を取材した体験をも踏まえ、「日本では、商店から物を盗むなど考えられない」、「(救援物資)の水や食糧の列に粛々と並び、自分のことを横において他人を助けるのだ」と、強調したのだ。

CNNテレビのキャスター、アンダーソン・クーパー氏は「日本は地震や津波に他国以上の備えをしてきたからこの程度の惨事で済んだが、日本以外の国だったらこうは行かなかっただろう」とコメントした。ABCテレビのアンカー、ダイアン・ソイヤーは「日本人は辛抱の名人だ」と褒めたたえた。
私の友人の一人も、津波に飲み込まれた挙句に家の中に閉じ込められ、数日ぶりに自衛隊員に助け出された女性が深々と頭を下げたあと、「私は大丈夫ですからほかの方を助けてください」と語るのをテレビで見て「本当に日本ならではの光景だ」と感動していた。
ワシントン・ポスト紙は、日本が第2次世界大戦の敗戦から見事に復興したことに触れ、「(震災から)返り咲く力を持っている国があるとすれば、それは間違いなく日本だ」と称賛した。
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ハーバード大での募金活動
支援の輪

巨大地震の発生を知らされるとアメリカ各地で瞬く間に支援活動が始まった。
オバマ大統領は地震直後の記者会見で「テレビで惨状を観て、胸が張り裂ける思いだ。深甚なるお見舞いを申し上げる」と述べた。さらに菅首相に電話を入れ「あらゆる支援を惜しまない。当面のことだけでなく、専門家の派遣や中長期的な復興なども含めての支援をする」と伝えた。
アメリカは早速、空母「ロナルド・レーガン」や強襲揚陸艦「エッセクス」を日本近海に派遣。約6000人の兵員を動員して、自衛隊と協力して救援活動や被害状況の調査、物資の輸送、放射線の測定などに従事。この協力支援は日米の友好と連帯の強化の証として「Operation Tomodachi(トモダチ作戦)」と名付けられた。
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米軍と自衛隊の連携

地域や学校、職場など、市民レベルでの支援活動も活発になっている。ハーバード大学では有志の学生が募金活動を始めた。マサチューセッツ工科大学(MIT)では「地震について私たちができること」のシンポジウムが開催される。ボストン市の中華街では中国人が「日本への支援」を呼びかけていた。誰彼となく声を掛け合い、自然発生的に始まったボランティア活動だという。
また大リーグ、ボストン・レッドソックスで活躍中の松坂大輔投手も100万ドル(約8100万円)の義捐金の提供を申し出、バイオリニストの五嶋龍さんがチャリティ・コンサートを行うなど、米国を拠点に活動している日本人のスポーツ選手や文化人の間でも支援の動きが進んでいる。
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中華街でも募金活動

原発事故の恐怖

地震と津波が最初の衝撃だとすると、福島第一原発の被災事故は第2の衝撃だった。いや、こちらの被災事故の方がアメリカでは深刻に受け止められているに違いない。
しかも、広島、長崎に原爆を投下された経験から放射線や被曝問題に敏感な日本とは異なり、この国では、元々、放射線への関心はあまり高くない。理解度も低い。それが今回の事故をきっかけに、今度は過剰なまでの反応へと転化した。
ある大手テレビ局は、3月12日、水蒸気爆発で第一原発1号機の原子炉建屋の屋根が吹き飛んだ日に、「発電所で爆発が起きた」、「作業員が避難している」と記者が興奮気味にリポートをし、「最悪の場合は炉心溶融(メルトダウン)もありうる」との原子力専門家のコメントと重ね合わせて、原発が大爆発を起こして大惨事になっていると言わぬばかりの報道を行っていた。専門家が「自分は多くの情報を持っていないので確たることは言えないが・・・」「最悪の場合であって、今が最悪の事態だとは言っていないが・・・」と断っていたが効き目はなかった。視聴者にすれば、原発爆発から地獄絵図の始まりとの印象を与えられた格好だ。
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事故を起こしたスリーマイル島原子力発電所

実際に、原発被災の報道に焦点が移ってからというもの、米メディアのトーンは急激に変わった。それまでは比較的に日本に対して好意的だったのが、日本の関係当局への不信感を露わにする。「東京電力は情報を隠しているのではないか」、「嘘を言っているのではないか」と厳しい論調が目立ってきた。
確かにインターネットを通じて日本から送られて来る映像を見る限り、東電や、原子力保安院の記者会見はわれわれ日本人が見ていても頼りない。具体性に欠ける、自信のない発表ぶり、訂正を繰り返す――。これでは「信用しろと言っても無理だ」と言わざるをえない。日本人が見ていてもそう感じるくらいだから、外国のプレスが「東電、保安院の発表は信用できない」との印象を持ったとしても無理からぬところだ。
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チェルノブイリ原子力発電所の現在の姿

悪夢

アメリカ人にとって、原発事故はすぐに1979年にペシルベニア州で起きた「スリーマイル島原子力発電所事故」を思い出させる。この時は、死者は出なかったものの炉心の一部が溶融し、周辺住民の大量避難が行われるなど、アメリカの原子力発電史上最悪の事故となった。このため各地で原発建設反対運動が起き、以後、30年近くにわたって原発の新規着工ができなかった。ようやくブッシュ政権になり、資源枯渇への切迫感や地球温暖化防止に役立つとの配慮から凍結が解除され、いよいよこれから原発建設が再始動すると見られていた矢先の福島原発の事故。アメリカの原子力政策の将来が絡むだけに関係者は事態の推移に神経質になっている。

一方で、旧ソ連のウクライナで1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故も記憶に新しい。炉心溶融ののち爆発を起こし、放射線がウクライナばかりかロシア、白ロシア(現在のベラルーシ)に飛散、放射性物質による汚染は東欧にまで及んだ。爆発による直接の死者が数千人、被曝の結果、癌などによる死者が数万人に達するとの推計もあり、人類史上、最悪の原発事故として知られている。
それだけに、原発事故となると「チェルノブイリ」を連想する人も多く、メディアのセンセーショナルな報道と相まって、国民の間に不安が高まっている。
福島原発から放射線が検出されたと日本で発表されると大騒ぎになり、ロサンゼルスでは放射性物質の体内吸収を抑えるヨウ化カリウムを買い求める市民が薬局に殺到、一時、ヨウ化カリウムが店頭から消えるほどだ。こうした騒動に、ついにオバマ大統領が「アメリカ西海岸やハワイ、アラスカなど本土、太平洋上の米領に有害なレベルの放射性物質は届かない」との声明を出して、国民に平静を保つよう呼びかけた。
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マサチューセッツ工科大学(MIT)ではシンポジウム

日本は大丈夫か

アメリカの国家核安全保安庁に勤務した経験があるウィリアム・トビー・ハーバード大教授はウォールストリート・ジャーナル紙(日本語版)のインタビューで「冷静さを保つことだ。パニックほど危険なものはない。重ねて言うが、万一、最悪のシナリオになったとしても、飛散する放射性物質は、原子炉が爆発したチェルノブイリ事故には遠く及ばないものと思われる」と力説。
ほかの専門家も概ね似たような見解を表明しているが、それでも米国民の疑心暗鬼は消えない。被災地に近い日本の国民が比較的平静でいるのとは対照的に、数千キロも離れたアメリカでミニ・パニックが起きている。われわれから見ると一種の風評被害に遭っていると言えなくもない。

ただ、それでも日本の当局者への不信の念は変わらない。
MITのジム・ウォルツ氏は「日本の原発はこの10年にわたって一連の事故を起こしてきており、事故を隠したり、実際より小さく見せようとしたりする傾向がある」と指摘。アメリカの原子力専門家の平均的な見方なのだろう。
野党・自民党の河野太郎代議士がCNNテレビで「日本の当局者が情報を出すのは遅いのは事実だが、情報を隠蔽していることはない」と強調、民主党政権に代わって釈明したが、当地のメディアを納得させるところまでには至っていないようだ。

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支援を呼びかけるポスター

今回の福島原発事故をめぐる日本政府、原子力保安院、東電の対応を海外で観察していると歯がゆい思いが募る。
第一点は、今回の原発事故は自然災害がきっかけであっても、限りなく人災だといえる。津波の大きさが想定をはるかに超えたことは間違いないが、原子炉の安全確保のための措置が万全であったかどうか。炉心冷却装置のバックアップが十分に整備されていたのかどうか。保安院や東電によると、1,2,3号機ともに非常用のディーゼル発電機がそれぞれ2台ずつ設置されていたが想定外の大きさの地震で作動できなかった、という。しかし、同じ系統での二重、三重のバックアップではなく、全く違った系統を組み合わせたバックアップにする設計思想はあり得なかったのか。アメリカの友人たちとの議論の中でもたびたび出される問題点で、「こうした事故が起きると、『日本の技術は世界でも一流だ』ということがそもそも信じられなくなってくる」と、彼らの指摘は手厳しい。そうした発想の欠如が”人災”だと言わせている。
 
もう一点は、こうした事故が起きるたびに問題が指摘される対外広報。具体的には記者会見の仕方だ。なぜ専門家任せにするのか。専門家は、専門知識はあっても、広報の仕方に慣れているとは限らない。言葉足らずの説明や、正確を期そうとするあまりに内容が不明朗になって誤解を生み、それが思わぬ風聞や風評に発展する恐ろしさ。しかも、今回のように世界中が注目する事件・事故では、日本の国民はもとより世界のマスコミや識者を納得させることができる説得力のある説明が必要だ。加えて、ニュースが瞬時に世界を駆け巡り、ユーチューブや動画投稿サイトを通じて映像が世界にばら撒かれる時代だ。グローバル化の大衆社会の中にあっては、あらゆる方面に目配りを利かせた広報活動が求められている。ただただ「正確さ」追い求めているだけでは務まらない、という現実を直視しなければならないのだ。

そして最後に。今回のような事故が起きた場合への対応として、電力会社、原子力保安院、政府の3者の関係が現在のままの体制でいいのかどうかを、もう一度、冷静になって考える必要がある。世界的な規模に発展する事件・事故への対応として、政府がイニシアチブを取る体制はどうすれば構築できるのか。アメリカの「連邦緊急事態管理庁(FEMA)の例を持ち出すまでもなく、有機的かつ一元的な事故対応が取れる体制作りが早急に求められている。

(2011年3月27日)