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吉田信三のアメリカだより 第3回

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国際アナリストで湖山医療福祉グループ顧問でもある吉田信三氏が学術研究のためにアメリカ東海岸のマサチュッセッツ州ケンブリッジ市に滞在しています。

同氏には、これから折にふれて、アメリカの政治、経済、社会をはじめ介護や福祉など――アメリカの息吹を現地からリポートしていただきます。

3回目は、アメリカの移民問題について

年末のアメリカ議会でちょっとした出来事があった。

オバマ大統領が熱心に推進していたる”移民改革法案”が共和党の反対に遭って、採決にも入れないまま潰れてしまったのだ。年明けの2011年1月に始まる議会の新会期では、昨年秋の中間選挙の結果を反映して共和党が下院の多数になるため、今後、事態の大きな変化がない限り、同法案が成立するのは難しい情勢となった。

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オバマ大統領が議会指導者と移民問題について協議

 この法案は、正式名称の頭文字をとって通称「DREAM法案」と呼ばれ、厳しい条件つきながら不法入国の若者を救うことをめざしている。16歳までに親に連れられるなどしてアメリカに渡り(つまり不法入国をしたのは親であって本人には責任がない)、高校卒かそれと同等の学歴を得て、2年間以上、大学に通うか軍隊に入隊した者には米国の永住権を与えようというもの。犯罪歴があってはならないとことは言うまでもない。

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アメリカの議会

 これに対して共和党の議員らは「不法移民は犯罪の温床になっている」などとして同法案に反対、不法移民の取り締まりと監視・警備の強化を求めた。テキサスやアリゾナなど、メキシコと国境を接しているアメリカ南部の諸州ではメキシコからの不法越境者が後を絶たず、こうしたスペイン語を母語とするヒスパニック系(ラティーノ系)の流入に手を焼いているのだ。

 日本でなら不法に入国した者は即「国外退去」になりかねないものだが、ここでは少しでも情状を酌量し、救済しようとしているところが興味深い。

 それというのは、今のアメリカでは経済も社会も、移民労働者とりわけ不法移民労働者を抜きにしては成り立たないからだ。ヒスパニック系の多くは、白人があまりやりたがらない農作業や建設・土木に従事しており、排除すればそれらの仕事はたちまち立ち行かなくなってしまう。アメリカの経済・社会を下支えしているのがヒスパニック系だ。

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越境禁止 危険だ! の標識

 アメリカに住む不法移民は推定で1000万から1200万人。その8割が中南米から移り住んで来たヒスパニック系の人たちだ、と言われている。 1980年代には全人口の約6~7%だったのが、その後、急激に増え、黒人を抜いて2008年には15%を占めるに至った。それが今後さらに増え続け、 2050年頃には全人口の3割に達するだろうとの予測さえある。

 オバマ大統領はメキシコからの不法移民の流入防止のための国境警備を強める一方で、少しでも”善良な”、”違法性の薄い”不法移民を労働市場に取り込み、才能のある若者に夢(DREAM)を与えようとして法案の提出に踏み切ったが、反対が強く果たせなかった。これは人道的見地から出た施策ではない。労働力の確保という現実的な要請と、移民を継続的に受け入れることがアメリカ社会の活力増進につながるとのアメリカの伝統的な考えに基づく。

 アメリカの建国は元をたどればヨーロッパの様々な地域からの流入者だ。あらゆる人種、民族の混合体こそが自分たちの国家のルーツであり生命力の源泉であるとの共通認識がある。40年後、50年後には、欧米の多くの国が人口の減少や経済力の減退で悩むに違いないが、アメリカは移民の流入によって現在の活力を維持しつづけるだろう、との楽観論さえある。

 ヨーロッパではドイツやロシアなどでは今後、人口が減少することが予想され、移民労働者問題の扱いが大きな政治問題になっている。ドイツは第二次世界大戦後の労働力不足を補うためトルコから労働者(主に単純労働)を大量に招き入れたが、景気が悪くなるにつれて「移民がドイツ人の職を奪う」として排斥運動が起きている。文化の違いから来る摩擦も多い。ロシアはとくに極東地域で人口減少と高齢化などによる深刻な労働力不足に陥っており、それを補うために中国からの移民が急増、一部には中国人移民脅威論さえ出ている。

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移民改革を訴えるデモ

 一方、アメリカでは、今のところ不法入国移民が問題になることはあっても「移民」そのものの是非を問う声は少ない。それどころか黒人のオバマ大統領の誕生に見られるように、白人でなくアフリカ系アメリカ人でも大統領になるチャンスがある、これこそがアメリカ国民に「夢」と限りない可能性を与える「多様性の国家」の強みだと胸を張る。

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多言語の表示

 アメリカ人は「Diversity」(ダイバーシティ、多様性)と言う言葉が好きだ。誇りを感じている。日本でも企業論、組織論の中で最近よく耳にする。人種や民族、性別や年齢、国籍はもとより、意見や価値、様式などの差異を超えて多様性を尊重し、それを受容する、といった意味合いだ。三人寄れば文殊の知恵どころか、何百万、何千万の異なった考えや価値観を持つ人間が寄り集まればいい知恵も出るし、活力も出る。社会に奥行きをもたらす――と。

 確かに、アメリカでは時々、途方もない発明が行われる。インターネット然り、iPad然り、Googleなどの検索システムがそれだ。そうした時代を先取りし、人間の思考方法を根本から変え、生活様式までも変えてしまう革新的な(「革命的な」と言ってもいいかも知れない)発明は、 Diversityのある環境、つまり、異なった考えや価値観を無造作に受け入れ、彼ら、彼女らに有り余る才能を思い切り吐き出させる社会でなければ生まれにくい。この点では、ヨーロッパもアジアもまだまだアメリカには太刀打ちできそうにもない。

 それなら、アメリカはそんな才能のある者で満ち溢れているかと言えば、必ずしもそうではない。そんなバラ色の国ではない。大半の者はただの人だ。普通の人。並みの人だ。いや、並みのことさえできない者が多い。それでも構わないと言って包み込んで行く。Diversityの懐の深さを見せる。

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私たちは同じ国民だ!

 アメリカに来ると人種のるつぼを実感する。白人、黒人はもとより、ヒスパニックもいればアジア系もいる。中東系、アフリカ系、中・東欧系で溢れかえっている。もちろん政・官界やビジネスの世界、メディア、大学・学術の世界で成功している者がいるが、一方で、土木、清掃などの単純作業に従事し、デパート、スーパーの店員、バスや地下鉄の運転手、車掌になっている者もいて、実に多様だ。中には、満足に計算ができないスーパーのレジ係、ほとんど理解できないお国なまりの英語を話すタクシー運転手に出会って面食らう。日本でなら到底受け入れられないレベルのサービスを堂々と提供する。それでもアメリカ人の客は辛抱強い。じっと我慢している。いや、よく観察していると「じっと我慢」なのではなく、ごく当たり前のこととして受け止めている。

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人種のるつぼ

 上を見ればキリがないし、下を見てもキリがない。が、できる者もできない者も、すべて飲み込んでしまう。上には上の対応をし、下には下の対応をする。Diversityの真骨頂だ。

「移民」の話から少し横道にそれた・・・・。

さて、日本はどうなのだろうか。

 少子高齢化が進み、一部の業種では深刻な労働力不足に見舞われている。
外国人労働力の導入と言う点では、一時、日本各地で、主に自動車メーカーの下請け企業城下町などで日系ブラジル人が多く見られた。介護福祉士の面では、フィリピン、インドネシアに次いで、タイとの間で受け入れ合意ができた。これらの国から徐々にではあるが受け入れが始まった。

 今後、日本の人口減少、若年労働力不足から外国人労働力移入の必要性がますます高まりそうだ。わが国の場合は、今のところ国内の労働力不足を補うためにどうすべきかの論議にとどまり、日本への移民問題が本格的に論議されるのはずっと先のことではあるが、アメリカの移民問題を観察していると、「移民」問題への取り組みが、実は「Diversity」を挟んで「社会の活力」と密接に結びついていることを教えられる。

 「元気だせ日本」のスローガンは、どうすればわが国の活力を取り戻せるかの悲痛な叫びだ。
アメリカの真似をしろとは言わないし、できなし、その必要も全くない。
しかし、日本型の「Diversity」を探ることが日本の活力を回復させる
ひとつのきっかけになることだけは確かなようだ。
そう思ってみたりもする。どういうことが可能なのか考えて行きたい。

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アメリカ議事堂前で
(2011年1月7日)